因果推論とは何か
因果推論(Causal Inference)とは、「ある要因(介入・処置)が結果にどのような影響を与えるのか」を統計的手法を用いて明らかにする学問分野です。単なる相関関係ではなく、「AがBを引き起こした」と因果関係を示すことが目的となります。
因果推論が重要な理由は、適切な政策立案や意思決定に役立つからです。単なる相関に基づいた結論では誤った判断をしてしまう可能性がありますが、因果推論を用いることでより正確な因果関係を特定し、より良い意思決定が可能になります。例えば、以下のような疑問に答えたい場合に因果推論が役立ちます。
- 医療:「新しい薬を服用すると、本当に血圧が下がるのか?」
- マーケティング:「広告を見たことで、商品の購入率は上がるのか?」
- 教育:「特定の学習法を導入すると、学生の成績は向上するのか?」
このように、因果推論はさまざまな分野で活用され、意思決定の根拠として重要な役割を果たします。
因果関係と相関関係の違い
因果関係を考える際によく問題となるのが相関関係との混同です。この混同によって、相関関係があるだけで「AがBを引き起こした」と誤解し、不適切な施策や判断を行うリスクが生じます。
相関関係とは
相関関係とは、2つの変数が同時に変化する関係のことです。ただし、片方の変数が変化したことによってもう片方が変化したとは限りません。例えば、アイスクリームの売上と水難事故の発生件数には相関関係があります。両者とも夏になると増加しますが、これは「気温の上昇」が両方に影響を与えているからです。この場合、アイスクリームの売上が水難事故を引き起こしているわけではないため、因果関係は成立しません。
因果関係とは
因果関係とは、ある要因(処置)が直接的に結果を引き起こしている関係のことです。例えば、「薬を服用すると血圧が下がる」場合、この薬が血圧を下げる原因になっているのなら、因果関係が成立します。しかし実際のデータ分析では、真の因果関係を明らかにするのは簡単ではありません。
以上から、相関関係と因果関係の違いを理解して分析を行うことが重要です。
因果推論と反実仮想
因果関係を正しく評価するために、因果推論では反実仮想(Counterfactual)という概念を用います。
反実仮想とは、「もし処置を受けていなかったら、どうなっていたか?」を考えることです。
例えば、新しい薬を服用した患者の血圧が120になったとします。しかし、この患者がもし薬を服用していなかった場合、血圧はどうなっていたでしょうか?
現実では、同じ人が同じ条件で「薬を飲んだ場合」と「飲まなかった場合」を同時に観察することはできません。この「観察できないもう一つの世界」を推測することが、因果推論の中心的な課題となります。そのため、次で述べるような統計的手法を用いて観察データから可能な限り正確に因果関係を推測することが求められます。
因果推論の代表的な手法
因果推論では処置が結果に与える影響を定量的に測るために、平均処置効果(ATE:Average Treatment Effect)や処置群の平均処置効果(ATT:Average Treatment Effect on the Treated)などの指標が用いられます。ATEは母集団全体の処置効果を示し、ATTは実際に処置を受けた対象に限定した処置効果を示します。これらの指標を適切に推定するために、以下のような手法が使われます。
- ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)
- 特徴:処置をランダムに割り当てることで、因果関係を厳密に検証できる。
- 利点:バイアスが少なく、因果関係を明確に推定できる。
- 欠点:コストや倫理的な制約がある。
- 傾向スコアマッチング(PSM:Propensity Score Matching)
- 特徴:似た特徴を持つ処置群と未処置群をマッチングして比較する。
- 利点:RCTができない場合に疑似的な比較が可能。
- 欠点:共変量のバランスが取れない場合、推定にバイアスが生じる。
- 逆確率重み付け(IPW:Inverse Probability Weighting)
- 特徴:傾向スコアを用いて、処置群と未処置群のバランスを調整する。
- 利点:全サンプルを活用できる。
- 欠点:傾向スコアの推定が不正確だったり極端な重みが付与されると、推定が不安定になりバイアスが生じる可能性がある。
- 差分の差分法(DiD:Difference-in-Differences)
- 特徴:処置前後の変化を処置群と未処置群で比較する。
- 利点:未観測の交絡因子が一定であれば因果推論が可能。
- 欠点:平行トレンド仮定が必要。
この他にも様々な手法があり、中にはATEやATT以外の処置効果を推定する手法もあります。
まとめ
因果推論は、「単なる相関」ではなく「因果関係」を明らかにするための重要な手法です。特に、反実仮想の考え方を理解することが因果推論の鍵となります。
因果推論にはさまざまな手法があり、状況に応じて適切なアプローチを選択することが重要です。例えば医療分野ではRCTが最も信頼性が高いですが、コストや倫理的制約のため観察データを用いたPSMやIPWが用いられることもあります。マーケティングでは広告効果を測る際にDiDを活用し、施策前後の変化を比較する手法が適しています。このように、目的やデータの特性に応じて適切な方法を選ぶことが求められます。
因果推論を学ぶことで、データ駆動の意思決定が可能になります。実際にデータを使って分析してみるのも良いでしょう。