再生性とは
再生性とは、同じ分布に従う複数の独立な確率変数の和が、元の分布と同じ形状の分布に従う性質を指します。この性質は、特定の確率分布にのみ見られる特別な特徴です。例えば、$X_1$ と $X_2$ という二つの確率変数が、それぞれ正規分布 $N(\mu_1, \sigma_1^2)$ と $N(\mu_2, \sigma_2^2)$ に独立に従うとき、和 $X_1 + X_2$ もまた正規分布 $N(\mu_1+\mu_2, \sigma_1^2+\sigma_2^2)$ に従うということになります。
再生性の確認方法
ある分布に再生性があるかどうかは、モーメント母関数あるいは特性関数を求めることで確認できます。正規分布を例に挙げて、実際に再生性の確認をしてみましょう。
先ほど出した二つの確率変数 $X_1$ と $X_2$ のモーメント母関数はそれぞれ、
$\begin{align*}
M_{X_1}(t) = E[e^{tX_1}] = \exp\left(\mu_1 t + \frac{\sigma_1^2t^2}{2}\right),\\
M_{X_2}(t) = E[e^{tX_2}] = \exp\left(\mu_2 t + \frac{\sigma_2^2t^2}{2}\right)
\end{align*}$
と書けます。この二つの確率変数の和 $X_1 + X_2$ のモーメント母関数 $M_{X_1+X_2}(t) = E[e^{t(X_1+X_2)}]$ の式を変形すると、
$\begin{align*}
M_{X_1+X_2}(t) &= E[e^{t(X_1+X_2)}]\\
&= E[e^{tX_1}e^{tX_2}]\\
&= E[e^{tX_1}]E[e^{tX_2}]\\
&= \exp\left(\mu_1 t + \frac{\sigma_1^2t^2}{2}\right)\exp\left(\mu_2 t + \frac{\sigma_2^2t^2}{2}\right)\\
&= \exp\left((\mu_1+\mu_2)t + \frac{(\sigma_1^2+\sigma_2^2)t^2}{2}\right)
\end{align*}$
となり、$N(\mu_1 + \mu_2, \sigma_1^2 + \sigma_2^2)$ のモーメント母関数と一致します。つまり、$X_1 + X_2$ が $N(\mu_1 + \mu_2, \sigma_1^2 + \sigma_2^2)$ に従うことが分かります。このようにして確率分布が再生性を持つかどうかを確認することができます。
再生性を持つ代表的な確率分布
以下は再生性が存在する分布の代表例です。
- 二項分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim Bin(n_1, p) \\
&X_2 \sim Bin(n_2, p) \\
&X_1 + X_2 \sim Bin(n_1+n_2, p)
\end{align*}$ - ポアソン分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim Po(\lambda_1) \\
&X_2 \sim Po(\lambda_2) \\
&X_1 + X_2 \sim Po(\lambda_1+\lambda_2)
\end{align*}$ - 負の二項分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim NB(r_1, p) \\
&X_2 \sim NB(r_2, p) \\
&X_1 + X_2 \sim NB(r_1+r_2, p)
\end{align*}$ - 多項分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim M(n_1, \{p_1, \ldots, p_k\}) \\
&X_2 \sim M(n_2, \{p_1, \ldots, p_k\}) \\
&X_1 + X_2 \sim M(n_1+n_2, \{p_1, \ldots, p_k\})
\end{align*}$ - 正規分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim N(\mu_1, \sigma_1^2) \\
&X_2 \sim N(\mu_2, \sigma_2^2) \\
&X_1 + X_2 \sim N(\mu_1+\mu_2, \sigma_1^2+\sigma_2^2)
\end{align*}$ - ガンマ分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim Ga(\nu_1, \alpha) \\
&X_2 \sim Ga(\nu_2, \alpha) \\
&X_1 + X_2 \sim Ga(\nu_1+\nu_2, \alpha)
\end{align*}$ - カイ二乗分布
$\begin{align*}
&X_1 \sim \chi^2(n_1) \\
&X_2 \sim \chi^2(n_2) \\
&X_1 + X_2 \sim \chi^2(n_1+n_2)
\end{align*}$
まとめ
確率分布の再生性は、特定の確率分布に見られる特有の性質であり、計算の簡略化やモデルの理解を助ける上で非常に重要な概念です。特に、正規分布やポアソン分布などでは多くの応用があり、実世界の複雑なデータをシンプルにモデル化することができます。この性質を理解することで、統計解析や確率モデルの設計がより直感的かつ効果的になるでしょう。